「3ヶ月の訓練で、あなたもプロの仲間入り」
「在宅でパート並みの収入が!!」
「仕事と家事育児の両立可能」
「家で仕事をしながら、知識も増加」
「空いた時間を上手に活用」
新聞の折り込み広告に載っていた在宅ワークの案内。 特別な資格のない私にとって、勉強をして資格を手にし、 そのうえ仕事のあっせんをしてもらえるなんて夢のように感じました。
私が在宅ワーク詐欺に遭ってしまったきっかけは、新聞の折り込み広告でした。「テープライター養成」「在宅で楽しみながら収入を得よう」「講座を修了後仕事を紹介」「講習を修了すれば講習料の8割が戻ってくる」そんなうたい文句が並んでいました。それも広告の中でも1枚の広告にいくつもの広告がまとめて印刷されているほんのちっぽけな広告。特に仕事を探して眼を皿のようにして見つめていたわけではなかった私が偶然見つけたことが、のちの私の人生を大きく変えるきっかけになりました。
遠距離恋愛ののちに結婚し、子供がすぐにできたために、専業主婦をしていた私は、妊娠中や出産、育児の中で、自宅でほんの少しでも仕事をして収入を得られれば、将来生まれてくる子供の養育費の足しになるかなという考えでいました。主人の親と同居ということもあり、子供が小さいうちに保育園に預けてまで仕事をすることに賛成してもらえない状況であったということもありました。
でも、どうやって自宅で仕事をするための求人を探すかの方法については、全く分かっていませんでした。そして、広告を見た話を主人にしましたが、特別にそのときには応募したわけではありませんでした。主人も在宅で仕事をすることに賛成でしたが、一抹の不安も感じていました。当時すでに在宅ワーク詐欺というものがクローズアップされているのを知っていたからです。
そして、その広告は、しばらく経ってから、再び目に留まることになるのです。
最初にしたことは、広告を主人に見せて、相談することでした。在宅ワークというと、家族に内緒でするという人が結構いるようですが、私は主人に相談し、理解を得ないと仕事として成立させることはできないと思っていました。仕事ですから、当然家事や育児と両立させるわけですが、どうしても無理になる場合もあるはずです。そんな時に、家族の理解を得ていないと仕事への影響も考えられると思ったのです。
当時の我が家にはパソコンはありませんでした。当時通っていたパソコン教室の休憩時間に簡単にホームページを閲覧しただけで、私は安全だと信じてしまっていました。。今にして思えば、調べるということが足りなかったと思います。もっといろんな角度から調べることが、自分の身を守るという観点からは重要だということを知るのは、これからさらにあとになってからのことでした。
募集をしていたのは、テープライターという仕事でした。パソコンがなくても仕事ができるというホームページの言葉に魅力を感じていました。また、単なる入力という仕事と違い、単価の高そうなイメージを抱かせる内容も書いてありました。テープライターに興味を持った私は、主人にホームページの話をして、相談しただけで、広告に書いてあった電話番号に連絡を取ってしまいました。
仕事のことについては、問い合わせをした電話の数日後には資料が送られてきました。資料が届くと数日のうちには先方からの電話があり、質疑応答となりました。テープライターの仕事を始める前に講座を修了し、試験に合格した人には仕事をあっせんするということでした。現在(当時)求人はたくさんあり、頑張って仕事をできる人であれば、10万円くらい稼いでいる人もいるということでした。
また、講座を修了した場合に研修費の8割が戻ってくるということも説明がありました。当時はいろいろな講座に対して(英会話など)職業安定所からの教育訓練給付金制度がよく取り上げられていたので、それと同一視していました(実は全く異なっていたのですが)。それも私の安心感(信用)を高めることにつながりました。
テープライターの業務というのは、日本語の読み書きができればだれでも可能な仕事であり、講座もほとんどの人が一定の期間内に終了して、試験にも合格し、業務を開始しているという説明でした。また、パソコンがなくても業務が可能との事だったので、仕事をして収入を得たらパソコンを購入しようということまで考えていました。
親切丁寧に私の疑問に答えてくれ、不安を一つずつ取り除くようにしてくれた担当の方をすっかり信用し、私はテープライターという仕事に対しても、問い合わせた会社のことも安易に考えるようになりました。そして、相談していた主人にも私の口から説明しているので、二人で明るい未来を想像するようになりました。
本当に簡単なの?という思いが膨らんだのは、契約して、講座のテキストが届いた後でした。契約後すぐには講座のテキスト類が発送されませんでした。私はちょうど妊娠していたのですが、子供を出産して間もないうちに講座を修了すれば、子育てしながらテープライターという在宅ワークができ、丁度いいだろうと考えていました。
ところが、テキストは里帰り出産に向けて実家に帰る頃になっても届きませんでした。数回にわたり、会社に電話をかけ、テキストの発送について問い合わせをしても、「もう少し待ってください」と言うばかり。結局送り先を実家に変更してもらい、数回の問い合わせののちに手元に届きました。
テキストを開いて学習を始めると、ほんの15分位のしかもゆっくりとした音声をリライトするだけでも、かなりの時間がかかりました。「本当に業務をするまでにスピードに慣れるのかな?」と感じました。また、音から文章を想像し、文字にするわけですから、当然自分自身の語彙力というものが重要だということに気付きました。「専門性の高い会話だと、調べるだけでも時間がかかるなあ・・・」
テキストは最初にすべての分量を送ってきたので、後半の内容まで確かめることができました。「どう考えても、時間が足りなそう」ということに気付くのには、それほど時間はかかりませんでした。そうこうしているうちに、私は出産となりました。
怪しいなって気づいた時というのは、実はありませんでした。というのも、テキストの発送が遅いのも、テキストが難しいのも詐欺のせいだということに気付いていなかったのです。それだけ、信用しきっていたといえばそうなのですが、当時の私自身が、そういうことに疎かったのです。
そんなある日、まだ里帰り出産で実家にいる間に嫁ぎ先の家に不思議な文章の手紙が届いたそうです。主人が仕事から帰宅後に実家にいる私宛てにFAXを送ってきて、初めて「何かが変だ」ということに主人と私は気付きました。
あるニュース番組で、その会社のテープライターの募集について、詐欺であるということが報道されたが、事実無根であるという内容の手紙でした。私はその番組(かなり有名な番組でした)を見ていなかったので、その放送局に問い合わせの電話を入れ、送られてきた文章をFAXしました。すると、「そんな放送をしたことはない、また、同様の問い合わせがきている」ということを教えられました。
何かがおかしい、怪しい・・・と気づき始めたころ、私は生まれて1カ月の赤ちゃんとテープライターのテキストとともに、嫁ぎ先に戻ることになりました。
詐欺と気づいた瞬間は、テレビのニュースでした。 珍しく夜7時からのニュースを見ていたら、捜査が開始されたということでした。 その後は関連するニュースを片端から探して、確認するという日々が続きました。
そのころは、在宅ワークを目指す主婦をターゲットにした 詐欺事件が増えていたこともあり、特集を組むテレビ番組もありました。 そこで初めて、自分の考えがいかに甘かったかということに気付きました。 そして、今後自分がどうしたらいいのか、どうなるのかという不安が出てきました。 この時に、「クーリングオフ」というものの意味を知ることになりました。
ニュースから数日して、連絡があったのは、地元の警察署からでした。 警察のほうで、詐欺の被害者の名簿を押収したようで、 事情聴取と被害届を提出してほしい、ということでした。 私自身の持っていたパンフレットや、 実家にいるころに送られてきた怪文書などの資料を持参して、 警察署での聴取となりました。
しかし、その後警察署から、何の音沙汰もありませんでした。 今にして思えば、受け身のままでいるだけでは、 数多くの事件の被害者であるというだけの存在として、 刑事事件の中では埋没してしまうということを知りました。
家族に相談するといっても、主人はずっと経過を承知していました。 ただし、我が家は主人の両親と同居という、 いわゆる3世代家族です。在宅での仕事を始めようとした時に、 当然主人には相談し、経過を報告しながら日々を送っていたのですが、 義両親には話をしてありませんでした。
事件が発生し、警察署に行くということになって、 心配すると分かっていても話さなくてはいけない状況に陥ったのです。 相談というよりは、報告といった感じでしょうか。当時の義父、 義母の心配はかなりのものだったと思います。
私の場合、テープライターの講座の費用という形で15万円ほど 契約の時に振り込んでいました。 パソコンを購入したり、ソフトを購入するといったことはなく、 ローンを組んでいたということでもなかったので、 金銭的な援助を申し込むというようなことはありませんでした。 ただし、「詐欺の被害にあう」という事実には変わりないので、 精神的につらかっただろうと思います。
もしも家族に相談していないままに申し込み、 詐欺の被害にあっていたらと思うとぞっとします。 何をするにしても、「内緒」というのはいいことはないと、 その時に経験したと、今は思っています。
お金を取り戻せと思うのは、詐欺の被害にあった人の共通の願いです。 当然私も少しでも多く取り戻したいという気持ちはあります。 しかし、なかなかどうやって取り戻せばいいのかについては、 情報を手に入れることができませんでした。
テレビなどでも、事件については取り上げるのですが、 被害金額を取り戻すということについての報道となると、 消極的と言ったほうが被害者の立場からするとあたっていると思います。 いわゆる「クーリングオフ」や消費者相談窓口などの紹介ということはしていても、 どうすれば個人が詐欺を行った会社に対して被害金額を請求できるのか ということについては教えてくれることはありませんでした。 それは、警察でも同じでした。
なぜそうなるかというと、「被害金額はおおむね取り戻せない」という 現実に基づくのです。詐欺を働き、巨額を手にしても、 そのお金をうまい具合に隠してしまい、詐欺を行った会社を倒産させ、 責任者などは数年の実刑などを経て、隠した金額を手にしているというのが おそらく実情でしょう。警察で、事情聴取の時にはっきりと「取り戻せない」と言われました。
それでも泣き寝入りをしないで戦う人もいます。 私には勇気がなく、行動を起こしませんでした。 今となっては遅すぎるのですが、 行動を起こして、戦う選択をしたほうが良かったのか・・・ と悔やむこともあります。
在宅商法詐欺の被害にあった過去の恥ずかしいような体験を振り返ってみると、 自分が本当に世間知らずであったということを思い知らされるばかりです。 少しでも疑問を感じることがあれば、徹底的に調べてから、 慎重に行動すべきであるということがよくわかりました。 自分の身を守るということにおいては、「やりすぎ」ということはないのだと思います。
そして、詐欺というのは、一度被害にあった人に向けて、 新たな詐欺を仕掛ける傾向があるのです。 「この前の損害を取り戻してやる」という感情を利用するのでしょうか。 在宅ワークの詐欺の被害にあってしばらくの間、 「在宅でお仕事をしませんか」という電話が頻繁にかかってきました。 つまり、詐欺の被害者は、何度でも被害にあうという 経験に基づく詐欺師の鉄則があるのでしょう。 無差別に被害者を探すよりも効率がいいはずです。
断り続けたところ、最近ではそういった類の電話はほぼなくなりました。 やっと、名簿から私の名前が抜けてきたのでしょうか。 被害にあってから、ほぼ7年という時間が経過しています。 それほどに詐欺というのは次々と同じターゲットを狙うのです。 これは、在宅ワーク詐欺にかかわらずほぼすべての詐欺事件と共通していると思います。
「甘い言葉には、必ず裏がある」
これを肝に銘じて日々を生活するようにしていきたいと、在宅商法詐欺の一件以来思い続けています。